税制と経済学 2011 2 6

書名 消費税「増税」はいらない
著者 高橋 洋一  講談社

 基本的に、日本では、学者や評論家は、
「財務省御用学者」か「日本銀行御用学者」に分類される。
 独立系の学者や評論家は少ないと思います。
なぜならば、財務省や日本銀行を批判する本や評論は、
見かけることが少ないからです。
 著者は、こう書いています。
「社会保障のために消費税増税という論理はわかりにくいものだった。
というのも、社会保障は所得再配分のために行われるものだから、
基本となる税源は所得税となるはずなのだ。
つまり、所得税で、まず所得再配分して、
その後に社会保障支出を使って、所得再配分をきれいに仕上げる。
 社会保障と消費税の組み合わせは、逆進的な消費税で徴収したうえで、
社会保障支出で所得再配分するのであるから、不完全で終わる。
いわば、これは政治的な理屈でしかなかった。
(中略)
消費税と社会保障の組み合わせは、経済理論から見ると、最悪だ」
 もうひとつ引用しましょう。
「すなわち、消費税を年金の財源にあてたいという意見は、
地方分権などやりませんよ、と言っているに等しいのである。
(中略)
 実際、海外では、消費税は地方の財源で、
これがオーソドックスなやり方だ。
 ところが財務省は、本音では、
自分たちが苦労して導入した消費税を手放したくはないと考えている。
だから年金と結びつけ、事実上、国税の扱いにして、
自分たちで、ずっと保持しようとしているのだ。
 地方分権という旗を振りながら、
一方では税源移譲ができないよう楔を打ち込む」
 私も、消費税というものは、
住民に対して基礎的サービスを提供する、
地方公共団体の地方税であるべきだと考えています。
 最初に、学者や評論家のことを書きましたが、
日本のメディアは、大本営発表を引用することが多いかもしれません。
 こうしてみると、戦前の日本と、あまり変わっていないような気がします。
時々、中国がうらやましくなってしまいます。
言論統制が厳しいと言われる中国では、規制があるのは政治分野で、
経済の分野は、自由活発な議論が展開されていると聞きます。
 日本においては、財務省や日本銀行を批判することは、
「事実上、できない」と言っていいかもしれません。
そういう批判本や評論をあまり見かけないのです。
これは、中国において、共産党指導部を批判できないのと同じような感じでしょう。
 そういうわけで、大げさに言えば、
日本における高橋洋一氏は、
中国におけるノーベル平和賞受賞者と似たような存在かもしれません。
 さて、消費税問題で、この本に付け加えるとするならば、
日本の消費税は、「欠陥だらけの消費税」と言えるでしょう。
 この問題は、税率が低い時は、欠陥だらけでも、
その欠陥は許容されるということです。
しかし、税率が高くなれば、その欠陥は消費者から怒りを買うということです。
 「どうして、こんな欠陥があるのだ。けしからん」と聞かれることがありますが、
こうした欠陥は、中小や零細業者のために、あえて作ったとも言えるでしょう。
 中小や零細業者にとって、消費税の事務は負担になるのです。
大企業ならば、消費税担当の事務員を雇えば済む話ですが、
中小や零細業者は、それができないでしょう。
だから、政治的な配慮で、中小や零細業者の事務作業が楽になるように、
消費税制度に、あえて欠陥を作ったと言えるでしょう。
 しかし、消費税を払う消費者にとって、
消費税制度に欠陥があることは絶対に許せないでしょう。
つまり、消費税は、消費者と事業者の対立関係を生むことになるのです。

欠陥だらけの消費税 2010 8 8
 最初に書いておきますが、
たとえ欠陥が多くても、税率が低いうちは、
その欠陥は、許容されるということです。
 書名 消費税のカラクリ
 著者 斎藤 貴男  講談社現代新書
 まず、各論に入る前に、
消費税をめぐる議論で気になったのは、
メディアの動向です。
 私の気のせいだったかもしれませんが、
なぜか、どのメディアも消費税増税の必要性を訴えていたと思います。
 この点について、私は、怖いものを感じました。
なぜかというと、太平洋戦争当時も、
どのメディアも戦争を賛美していました。
 あれから数十年、結局、
メディアの体質は、変わらなかったということでしょうか。
 これだけ数多くのメディアがあるのですから、
A社は消費税増税、B社は消費税減税、
C社は消費税廃止、D社は消費税増税よりも無駄削減など、
いろいろな社説を訴えて論争するのが、自然な姿だと思います。
 A社もB社もC社もD社も、同じような論調では、
「非常に不自然だ」と言わざるを得ないのです。
 おそらく、太平洋戦争に突入する時も、
こんな感じだったのでしょう。
 日本のメディアは、「お上」の意向を重視する傾向が強いと思います。
この点は、中国のメディアと同じです。
おそらく、日本のメディアは、中国で活動しても「成功」すると思います。
 中国政府も、日本のメディアの体質を熟知していますから、
日本のメディアに対して親近感を感じていると思います。
 さて、各論に入りましょう。
消費税の問題点として、よく議論されるのが、次の三つでしょうか。
A逆進性、B益税、C景気(消費)を冷え込ませてしまう。
 Cについては、誰でもわかることなので省略します。
 Aの逆進性については、要するに、
貧しい人ほど、負担が大きくなるということです。
 Bについては、やや専門的になりますが、
「消費者が消費税のつもりで支払った金額のうち、
合法的に事業者の手元に残る金額を指している」ということです。
 以上の三点は、よく議論されていることで、
誰でも知っていなければならないことです。
 次に、著者の独自の指摘としては、
「第二章 消費税は中小・零細企業や独立自営業を壊滅させる」という章で、
税金で滞納が多い税目は、消費税であると指摘しています。
 おそらく、零細企業や独立自営業たちは、販売力が弱いので、
つまり販売の力関係では消費者に対して弱い立場なので、
実質的に消費税の価格転嫁ができないケースが多いのではないかということです。
 結局、消費者からは、実質的に消費税が取れていないが、
それでも、事業者としては、消費税を納めなければならない。
 これは、消費税は間接税ですが、
販売力の弱い零細事業者にとっては、実質的に「直接税」になっているということです。
零細事業者にしてみれば、新たに「消費税」という直接税が新設されたと感じるかもしれません。
 事業税は赤字ならば納めなくてもよいのですが、
消費税は、たとえ赤字でも、売り上げがあるならば、納税義務があります。
 このように、消費税は、零細企業や独立自営業にとって、厳しい税金ですので、
免税点制度というものがあります。
この免税点は、従来は3000万円だったのですが、
2004年度からは、1000万円となりました。
 つまり年商2000万円の事業者は、
免税点が3000万円のままならば、消費税の納税義務は発生しません。
この免税点が1000万円に引き下げられると、零細事業者は経営上厳しくなります。
多くの零細事業者に消費税の納税義務が発生するからです。
 ただし、消費税を払う消費者にとってみれば、
事業者の免税点が高いのは不満に思うでしょう。
 税率が低いうちは、たとえ欠陥があっても、
大目に見てもらえたのに、税率が上がれば視線は厳しくなるということです。
しかし、零細事業者は経営上厳しいことには変わりありません。
 さらに、消費税は、事業者にとっては、複雑な税金です。
それは、「仕入れ税額控除」という仕組みがあるからです。
この仕組みのために、大げさに言えば、
消費税担当の事務員を雇う必要があるとまで言われます。
これは、大企業ならばともかく、零細事業者にとっては大変な事務となっているでしょう。
 結論から言えば、消費税とは、
大企業・金持ちには不利にならない、
零細事業者や零細消費者にとっては、過酷な税金と言えるかもしれません。
 もちろん、どのような税目でも、税金である以上、
過酷と言えるでしょうが、
消費税は、欠陥が多いという点で、あるいは消費者と事業者の対立関係を生むという点で、
過酷と言えるかもしれません。
 否定的なことを多く書きましたが、
もちろん、消費税にはメリットもあると思います。
やはり、税金というものは、「広く」負担すべきです。
 直接税の場合は、脱税や節税が横行するリスクがあります。
さらに、景気の変動を受けやすいのです。
社会保障の財源として、景気の変動を受けやすい税制は問題があると思います。
 いずれにせよ、消費税という税目は、
他の税目に比べて、非常に論点が多い税目であり、
さらに、社会的な対立関係を生む税目でもあります。
 だから、政治家にとって、消費税とは、思いつきで発言してはならない税目であり、
よく勉強してから発言すべき税目です。













































トップページへ戻る